第19話:会社カード
L電子中央研究所の技術顧問をしていた時の話である。S電子日本研究所に永年勤務し定年退職した私はちょっとしたきっかけで次の年からライバル会社L電子に勤務することになっていた。
勤務形態はひと月の内の2週間は韓国でのホテル暮らし、後の半分は日本での自由時間と言う契約であった。しかし月半分の日本での自由時間は実質的に韓国勤務の為の技術支援準備や研究所の日本技術提携企業や大学研究機関との人的交流の案内等に費やされていた。
さて、そんな状況の中で私が遣う旅費・交通費・営業接待費等の経費もバカにならず、またそれら経費は自分自身で月毎に研究所経理で精算するシステムになっていた。
しかしそこには問題が一つ在った。本来なら領収書をそろえて現金精算してくれれば良いのだが、研究所の経理システムに依れば全社員に名義はそれぞれの社員だが、決済は会社が行ういわゆる会社クレディットカードを支給し、会社の経費はすべてその会社カードで支払い精算しなければならないと言う事だった。
そこで私にも早く会社カードを支給しろと交渉したが顧問は外国人だから会社カードは作れないの一点張りで埒があかない。そのままでは私の経費精算は一切できないという経理担当部門の話なので仕方無く次の様な奇策を考え実行する事にした。
私の秘書の様な形でC代理がついていてくれたのだが彼の会社カードを私が使い精算も彼の口座で行うと言う策である。結果的にこの奇策でその後なんの問題も無く経費精算が出来たのだが私としては何となく後味悪い解決策であった。
韓国内ではL電子会社カードの威力は絶大で例えば旅行代理店で航空券手配をする時に、旅券を見て私が日本人だとわかっていても韓国人のC君名義の会社カードで支払って何の指摘も無かった。ホテルでも全く問題なく支払いができたのである。
日本のJR等での支払いについてはサインの確認だけなのでこれも何の問題が無かったと記憶している。当初、C君になりすましてのカード使用はやはり内心穏やかではなく、人知れずカードサインのハングルを崩した訳の分からない記号を何回も練習したのを覚えている。
若い頃日本でもヒットしたフランス映画「太陽がいっぱい」中で金持ちを殺してなりすまし大金を手に入れた主役のアラン・ドロンがなりすまし相手のサインを必死に練習するシーンを思い浮かべて苦笑してしまったのである。
日本の支払い窓口担当者は、私が随分流暢な関東弁を使う外国人だと思った事だろう。
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勤務形態はひと月の内の2週間は韓国でのホテル暮らし、後の半分は日本での自由時間と言う契約であった。しかし月半分の日本での自由時間は実質的に韓国勤務の為の技術支援準備や研究所の日本技術提携企業や大学研究機関との人的交流の案内等に費やされていた。
さて、そんな状況の中で私が遣う旅費・交通費・営業接待費等の経費もバカにならず、またそれら経費は自分自身で月毎に研究所経理で精算するシステムになっていた。
しかしそこには問題が一つ在った。本来なら領収書をそろえて現金精算してくれれば良いのだが、研究所の経理システムに依れば全社員に名義はそれぞれの社員だが、決済は会社が行ういわゆる会社クレディットカードを支給し、会社の経費はすべてその会社カードで支払い精算しなければならないと言う事だった。
そこで私にも早く会社カードを支給しろと交渉したが顧問は外国人だから会社カードは作れないの一点張りで埒があかない。そのままでは私の経費精算は一切できないという経理担当部門の話なので仕方無く次の様な奇策を考え実行する事にした。
私の秘書の様な形でC代理がついていてくれたのだが彼の会社カードを私が使い精算も彼の口座で行うと言う策である。結果的にこの奇策でその後なんの問題も無く経費精算が出来たのだが私としては何となく後味悪い解決策であった。
韓国内ではL電子会社カードの威力は絶大で例えば旅行代理店で航空券手配をする時に、旅券を見て私が日本人だとわかっていても韓国人のC君名義の会社カードで支払って何の指摘も無かった。ホテルでも全く問題なく支払いができたのである。
日本のJR等での支払いについてはサインの確認だけなのでこれも何の問題が無かったと記憶している。当初、C君になりすましてのカード使用はやはり内心穏やかではなく、人知れずカードサインのハングルを崩した訳の分からない記号を何回も練習したのを覚えている。
若い頃日本でもヒットしたフランス映画「太陽がいっぱい」中で金持ちを殺してなりすまし大金を手に入れた主役のアラン・ドロンがなりすまし相手のサインを必死に練習するシーンを思い浮かべて苦笑してしまったのである。
日本の支払い窓口担当者は、私が随分流暢な関東弁を使う外国人だと思った事だろう。
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