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第22話:英語で説明してくれ!

通信工学に「電波伝播」と言う言葉がある。意味は電波が空間を伝わり離れた場所に届くと言う意味だ。日本語では通常は漢字で「電波伝播」と書き「でんぱでんぱ」と読む。技術屋が漢字を見れば一瞬でその技術的な意味を把握できる。尚電波法などでは「電波伝搬」とも表記される。

韓国語でも漢字教育がなされていた昔は同じ言葉を「電波傳播」と書き「チョンパチョンパ」と読んだ。漢字を見れば意味は一目瞭然なのだが、韓国自体が民族主義的な理由だろうが漢字教育を撤廃し全てハングルで記述しているので、現在の若い技術者は漢字が使えず、従って読み言葉の「チョンパチョンパ」でしか書けないし意味を把握できない。

ちなみに「傳播」の「傳」は日本語の漢字「伝」のオリジナル形で日本でも戦前まではこの形を使っていた。また韓国で使われる漢字語の内、科学・工学・医学・法律用語の殆どは日本で明治維新以降、西洋文明を取り入れる為の翻訳作業中に創造された漢字語がそのまま輸出された日本起源の漢字語だそうである。

話は変わるが筆者が1988年の韓国オリンピック当時韓国に何回か仕事で訪れた事があるが、当時の新聞は漢字語は漢字で表現されていた。韓国語の80パーセント程度は漢字語であるといわれているので、当時韓国語が全く判らない筆者が読んでも記事の内容はほとんど理解できたと記憶している。

現在の新聞は全てハングルで書かれているので新聞の斜め読みなど不可能で、速読するにはなはだ非効率である。日本の新聞が全て「ひらがな」で記述してあると想像してみて頂ければ非効率さは理解できるだろう。

さて、現在は偉くなってしまったが、S電子の携帯端末事業の黎明期にGSM携帯電話事業を立ち上げた当時のS常務のエピソードである。彼は米国で学位を取り、米国企業で働いた後S電子に入社し、その後のS電子の携帯端末事業の大躍進の基となるGSM携帯電話端末を開発した功労者である。

当時S常務は若い技術屋から技術的な話を聞いたり仕様について討議する時、部下に「悪いけど英語で説明してくれ!」としばしば要求していたそうだ。真意は若い技術屋の英語力向上の為普段から英語で説明させるということではなく、若い技術屋が話したりプレゼン資料中のハングルで書いた技術用語が良く理解できなかったと言う理由だ。

当時のS常務は米国暮らしが長かったせいか部下が話す漢字語である技術用語のハングルだけの読み書きでは理解が難しかったようだ。当然「チョンパチョンパ」は英語で「Propagation of RF energy」と言った方が正確に意味が伝わるのである。

韓国語は特に漢字語に同音異義語が多く、漢字を用いずハングルだけで表記した文章は非常に意味が曖昧になるが、現地人に聞くと前後の文脈から判断して問題無いと胸を張っているのが不思議である。

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第21話:I部長出社拒否事件

確か1990年代前半のもう年末の出来事だったと記憶している。私と研究開発プロジェクトマネージャーのk次長はある研究開発課題の打ち合わせで本社事業部開発部隊を訪問した。当時まで開発部隊は郊外の総合研究所内で仕事をしていたが、丁度彼らが開発したGSM携帯電話が売れ始め業務拡大に伴い本社事業部内に20数階の新ビルディングを建てに引っ越ししたばかりの頃であった。

本社事業部開発部隊にはk次長がよく知るI部長が開発支援室に勤務しており、私も前から存じ上げていたので挨拶して行こうと言う話になった。I部長は永年S電子日本本社に駐在され、日本語も堪能な方で、日本ではK次長と隣り合わせのマンションに住んでいたそうである。

そんな訳でK次長が連絡をとったところ、暗い顔で「I部長は一週間ほど出社してないそうです」とつぶやいた。その後あちこち電話を掛けまくり事の真相を確かめた所、次の様な理由であることが判明した。

S電子に限らず一般的な韓国企業の事業年度は1月から12月で、12月は丁度年度末にあたる。年度末は次年度の新体制を睨んだ昇進内定時期にあたり丁度そういう年齢に達し常務への昇進を確信していたI部長に昇進の内定は出なかった様だ。彼の落胆ぶりは甚だしく一週間に及ぶ出社拒否という仕儀になってしまった様である。

人事担当者からは本社事業部内には彼の常務昇進ポストは無く、地方にある本社工場に転勤すれば常務ポストが空いていると言われたそうだが、悩んでいたそうだ。

元々韓国社会は一点集中主義で、勤務するならソウルもしくは近郊で、地方への転勤など彼らの自尊心が許さないそうである。従って地方転勤を命じられた社員は左遷されたと解釈してさっさと自主退職する場合も多いそうである。

後日談だが彼は我慢して工場購買担当常務を数年勤めた数年後、本社事業部と工場の購買部門統合により無事に本社事業部購買部門に戻ってきた。現在では日本語が堪能な事から、日本の部品納入業者などから頼りにされている存在であるという。

それにしても小学生の様に駄々をこね、一週間も登校拒否するI部長の自尊心も大したものだが、その後何事も無かった様に勤務させる会社も会社であり、韓国社会は情実社会であるという現実を目にすると、本当に愛すべき隣国人たちであると実感するのである。

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サムスン・LG 技術者転職問題で泥仕合

サムスンのディスプレー技術、LGに持ち出し
<2012/04/05 朝鮮日報日本語版記事引用>

京畿地方警察庁は5日、サムスンモバイルディスプレー(SMD))が開発したアクティブマトリックス式有機EL(AMOLED)パネルの重要技術を持ち出したとして、同社の現職・元研究員6人とLGディスプレーの社員5人の計11人を摘発した。

このうち、SMDの元首席研究員C容疑者(46)については、逮捕状を請求。残る10人は在宅のまま立件した。AMOLEDパネルは「ギャラクシーS」などスマートフォンに使われる次世代ディスプレーで、現在テレビやパソコン用ディスプレーに使用されている液晶パネルに比べ画質がはるかに鮮明で、薄いのが特長だ。

調べによると、C容疑者は2010年8月、人材スカウト会社の関係者と共にライバル企業、LGディスプレーの人事担当者と会い、AMOLED開発担当者5人と共にLGディスプレーに移籍することを決めた。C容疑者は役員待遇を受けることが条件だった。C容疑者は10年11月にSMDを退職し、LGディスプレーの下請け会社Y社を通じ、LGディスプレーにAMOLED製造技術を漏らし、コンサルティング名目で1億9000万ウォン(約1400万円)を受け取っていた。

しかし、C容疑者は当初の期待とは異なり、LGディスプレーに採用されなかったため、同じ手口で中国のディスプレー業者に技術を漏らそうとし、摘発された。また、同時に摘発されたSMDの元研究員(40)ら3人は昨年SMDを退職し、LGディスプレーに移籍した後、AMOLEDの製造法を漏らした疑い。SMDの現役研究員(35)ら2人は、AMOLEDの開発進行状況を電子メールなどでLGディスプレーに移籍した研究員に漏らした疑いが持たれている。法律では、転職しても、前職で知り得た営業上の秘密を漏らしてはならないと定められている。

これについて、LGディスプレーは「C容疑者から受け取ったとされる資料は、AMOLED分野のエンジニアなら、インターネットやセミナーで容易に知ることができるレベルのものだ。C容疑者からいかなる技術情報を受け取ったこともない」と反論した。同社関係者は「サムスンもLGディスプレーの社員を数十人スカウトしておきながら、われわれが(サムスン社員を)スカウトすることを問題視している」と述べた。

卓相勲(タク・サンフン)記者

<筆者所感>

サムスン・LG両社に在籍経験がある筆者には興味深い記事である。

同じ技術分野の両社の技術屋同士はもともと出身大学が同じとか、学会活動で親しいとかで個人的な親交は深いようである。従って自然に互いにどんな研究開発テーマを推進中なのかは良く知り合っている仲である。

首謀者が核心技術を中国に売りつけようとしたのが摘発理由という事だがついでに競争相手に転職した技術者も告発し、今後同様な事態が起こらぬよう恫喝したというのが本筋であろう。実際LG側の抗弁の様にサムスンも同様にLG技術者のリクルートを頻繁に実施しておりまさに泥仕合の様相である。LGはそれほどでも無いが特にサムスンはなぜかLGを毛嫌いしていて、サムスンに部品売り込みに行った日本メーカーがLGとの取引停止を条件に取引口座が開設出来たなどと言う話を少なからず聞いた事がある。ナンバーツーの陰がそれほど怖いのだろうか?

告発されたサムスン・LGの若手技術者も電子メールでやりとりしていたのが証拠となった様だがなんと脇の甘いことか。サムスンでは社内イントラネットから外部への情報発信を監視するネットセキュリティーポリスが常時情報内容を監視しており情報の外部流出を食い止めようとしている。それでも様々な分野、階級の従業員の社内情報の持出、中国への横流し摘発のニュースが後を絶たないのは国民性と言う事なのか筆者には理解できないのである。

話は変わるが、韓国主力企業の日本企業技術者へのリクルートも盛んな様であるが、大概の場合、日本人技術者が入社後どれくらいの能力を発揮できるかではなく、どれ位日本企業の研究開発情報を持ってきてくれるかが問題で、その技術が丁度彼らに不足している技術ならばびっくりするような高待遇で引っ張るらしい。

以前に奥さんが韓国人の日本人技術者から聞いた話であるが、彼は奥さんから韓国人と技術的交流をする時には自分の技術を100%開示してはいけない、せいぜい70%位にして核心部分は決して見せないようにときつく言われているそうである。

現在のサムスン・LGの隆盛ぶりを眺めると言いえて妙である。


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第20話:悪口は通訳しません

S電子日本研究所勤務時代の入社当時の出来事だ。
当初は私は韓国語が話せずプロジェクト設定や進行状況の報告に韓国出張する時は必ずプロジェクトマネージャーのK次長が同行し通訳をしてくれていた。

ある韓国出張時、クライアントである韓国事業部の開発技術者たちとの技術ミーティングの席でK次長の韓国語の通訳が奇妙な事に気づいた。討議テーマに関しては彼らの話を逐一正確に通訳しているように聞こえるのだが、韓国人技術者同士の会話は通訳してくれていないように感じる。元々彼は律儀な性格でそういう場面でも、今彼らがどういう身内の会話をしたかまで通訳して教えてくれるものだったのだが。

会議が終わり彼に「会議中に韓国人技術者同志で何を話していましたか?」と尋ねると彼は「とても答えられる内容では有りません、答えられません」と言うではないか。さらに追求すると「知らない方が良い日本人に対する悪口ですよ」と続けた。

「それでは我々日本人が韓国人技術者に対して同じ様な事を言っても通訳しないのか?」と尋ねると当たり前の様に「両者の関係が悪くなるようなお互いの発言は当然通訳しませんよ」と平然と答えた。

確かに彼は韓国人駐在員で韓国の親会社と日本研究所の間に入ってプロジェクトの円滑な進行を計るプロジェクトマネージャーであり、彼からすれば、つまらない言動で日韓技術者の間に悪い感情が芽生えない様に配慮しての事なのだろうが、逆にお互いネガティブな考えや感情があるのなら徹底的に論議しあって方向性を出す事こそ長い目で見れば必要なのではないかと感じたのであった。

彼は研究所に勤務する技術者に同行して韓国出張する時には、丁度中学生の保護者のような存在で、我々に韓国社会のネガティブな面を見せない様に相当気を使っていたようだ。例えば夜クライアントを接待し我々も同席する食事会やその後の二次会・三次会でも通常はかなり怪しげな店までつき合うのだが、彼はそういう場所を意識して避けようとしていた様だ。

彼からすれば互いにネガティブな事柄は見ない様にして無駄な摩擦を起こさない様配慮していたのだろうが、お互いに喧嘩になるほど論議しつくした後、相手に対して清濁あわせ飲む度量が今後の正しい日韓の人間関係を築くのには必要ではないだろうか?

最も相手側がその土俵に上って来てくれる事が始まりの絶対条件となるであろうが。

ちなみに会議の片隅で韓国人技術者にどんな悪口を言われているのか知りたいと言う思いが私の韓国語習得への一つの大きな原動力となったのであった。

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Author:RFD-Lab管理人
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通信機器の高周波回路・部品の研究開発に携わって来た技術屋のブログです。現在は個人経営の技術コンサルタントを営んでおります。
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最近「ドローン」の無線応用技術についてスタディーを始めました。自動配達の為の自律飛行を補助する衝突防止レーダ等、興味深い分野です。
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​「ドローン」墜落事故が散見される中、現在は「航空法」に依って規制され、ラジコンによる「目視飛行」が許可されている様ですが、安全飛行の為には無線通信の確保が大前提となります。
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またRFD-Labホームページに掲載した技術解説記事のPDF抜粋も併せて掲載しますのでご興味のある皆さんは参照して下さい。

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