第43話:完成度より納期
確かあれはS電子無線事業部のGSM開発部隊が水原市郊外にある研究所から水原事業所内に新たに建設した二十数階の高層ビルに移転したばかりの頃だった。
当時のS社の携帯電話事業はまだ先行していたCDMA携帯が主流の時期で、後のS社GSM携帯端末事業の隆盛を予期した移転だったのかも知れない。
現在は無線事業部の社長をつとめるS氏も当時はGSM携帯開発チームの技術責任者であり常務という役職であった。当時はまだスマートフォンは世の中には出現しておらず、いわゆる携帯電話の全盛期であった。
さて我々日本研究所の無線通信研究チームは以前からS社携帯電話開発チームの小型アンテナの研究開発を手伝っていたのだが、新しい開発案件でS常務に水原事業所に呼ばれていたのである。
今度発表する新機種の小型携帯電話用の内蔵アンテナを開発して欲しいと言うことで、年も押し詰まった特に寒い一日に訪韓出張したのであった。
携帯内蔵アンテナの基本性能はそのアンテナ体積に依存し、携帯の意匠デザイン設計上から割り当てられるアンテナ体積が充分に考慮されないと良好なアンテナ性能は得られない。
我々の事前技術検討(フィージビリティスタディ)の結果では、事業部が要求する体積では極めて技術難易度が高く、従って何か技術的な新機軸を適用しなければならない研究案件であり、結果を出すのには少なくとも一年位は掛かるという計画書を携えてのプレゼンテーションであった。
訪問すると、丁度引っ越ししたばかりの高層ビルの最上階にあったS常務の執務室には、引っ越し祝いの高価な「蘭」の鉢植えが幾つも飾られ、いかにも体面を気にする韓国社会らしいなと思ったのを今でも思い出す。
我々は要求サイズの小型アンテナに関して技術難易度を説明し、一年の研究開発期間を了承して貰おうと説明を始めたのだが、事件はそのときに起こった。
説明を聞いていたS常務が、何が気に入らないのかA4用紙に印刷したプレゼン資料を突然我々に投げつけたのだ。
S常務の突然のご乱心に我々日本人技術者は少々驚くと共に、内容が気に入らないからといって何も投げつける事は無いと多分に憮然としたのだが、すかさず同行の日本駐在員のK次長がその場を取りなし宥めながら訳を聞くと、次の様な事であった。
彼らが取り組み中の新機種は、重要顧客である通信キャリアー向けに、従来よりも小型でスマートな携帯端末の開発を約束して順調に端末開発も進めてきた。
アンテナに関してはS電子出入りのアンテナ部品業者に納入させる予定で、従来よりも小型高性能タイプのアンテナを開発させて来たが、端末自体は開発完了しいよいよ納期も迫ってきた現時点においてもアンテナ性能だけが未達成で、顧客との納期約束もある手前、ほとほと困っていると言うことだ。
要するに、開発当初から我々日本技術陣に任せておけば良いものを、ここに来て何とかしてくれと泣きついて来たと言うストーリーの様だ。
それならば最初から事情を明かして何とか助けてくれと依頼すれば良いものをと思うのだが、そこはそれ、自身の技術的な眼力の無さから招いた失敗は決して認めたがらない韓国人の性なのだろうと諦めるしか無かった。
「判りました、ご希望の性能確保は難しいでしょうが、実用上差し支えない性能のアンテナでしたら何とかご希望の日程で開発しましょう」と約束したところ、常務のご機嫌はたちどころに直ったのである。
会議が終わった我々は「今日はS常務に一芝居うたれたな〜。まあ開発費を弾んでくれるだろうから我慢するか」と口々に愚痴を言いながら重い足取りでホテルへと帰ったのである。
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当時のS社の携帯電話事業はまだ先行していたCDMA携帯が主流の時期で、後のS社GSM携帯端末事業の隆盛を予期した移転だったのかも知れない。
現在は無線事業部の社長をつとめるS氏も当時はGSM携帯開発チームの技術責任者であり常務という役職であった。当時はまだスマートフォンは世の中には出現しておらず、いわゆる携帯電話の全盛期であった。
さて我々日本研究所の無線通信研究チームは以前からS社携帯電話開発チームの小型アンテナの研究開発を手伝っていたのだが、新しい開発案件でS常務に水原事業所に呼ばれていたのである。
今度発表する新機種の小型携帯電話用の内蔵アンテナを開発して欲しいと言うことで、年も押し詰まった特に寒い一日に訪韓出張したのであった。
携帯内蔵アンテナの基本性能はそのアンテナ体積に依存し、携帯の意匠デザイン設計上から割り当てられるアンテナ体積が充分に考慮されないと良好なアンテナ性能は得られない。
我々の事前技術検討(フィージビリティスタディ)の結果では、事業部が要求する体積では極めて技術難易度が高く、従って何か技術的な新機軸を適用しなければならない研究案件であり、結果を出すのには少なくとも一年位は掛かるという計画書を携えてのプレゼンテーションであった。
訪問すると、丁度引っ越ししたばかりの高層ビルの最上階にあったS常務の執務室には、引っ越し祝いの高価な「蘭」の鉢植えが幾つも飾られ、いかにも体面を気にする韓国社会らしいなと思ったのを今でも思い出す。
我々は要求サイズの小型アンテナに関して技術難易度を説明し、一年の研究開発期間を了承して貰おうと説明を始めたのだが、事件はそのときに起こった。
説明を聞いていたS常務が、何が気に入らないのかA4用紙に印刷したプレゼン資料を突然我々に投げつけたのだ。
S常務の突然のご乱心に我々日本人技術者は少々驚くと共に、内容が気に入らないからといって何も投げつける事は無いと多分に憮然としたのだが、すかさず同行の日本駐在員のK次長がその場を取りなし宥めながら訳を聞くと、次の様な事であった。
彼らが取り組み中の新機種は、重要顧客である通信キャリアー向けに、従来よりも小型でスマートな携帯端末の開発を約束して順調に端末開発も進めてきた。
アンテナに関してはS電子出入りのアンテナ部品業者に納入させる予定で、従来よりも小型高性能タイプのアンテナを開発させて来たが、端末自体は開発完了しいよいよ納期も迫ってきた現時点においてもアンテナ性能だけが未達成で、顧客との納期約束もある手前、ほとほと困っていると言うことだ。
要するに、開発当初から我々日本技術陣に任せておけば良いものを、ここに来て何とかしてくれと泣きついて来たと言うストーリーの様だ。
それならば最初から事情を明かして何とか助けてくれと依頼すれば良いものをと思うのだが、そこはそれ、自身の技術的な眼力の無さから招いた失敗は決して認めたがらない韓国人の性なのだろうと諦めるしか無かった。
「判りました、ご希望の性能確保は難しいでしょうが、実用上差し支えない性能のアンテナでしたら何とかご希望の日程で開発しましょう」と約束したところ、常務のご機嫌はたちどころに直ったのである。
会議が終わった我々は「今日はS常務に一芝居うたれたな〜。まあ開発費を弾んでくれるだろうから我慢するか」と口々に愚痴を言いながら重い足取りでホテルへと帰ったのである。
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