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第17話:学歴至上主義

2000年代当初はS電子日本研究所も開設して3年余りでまだまだ韓国本社からの研究開発要請に対して充分な成果はあげられなかった。その原因の一つは人材確保の難しさにあった様だ。

日本研究所も各技術分野別で恒常的に人材募集をしていたのだがなかなか良い人材は集まらなかった。色々な人材募集広告に金をかけていたので応募者は少なくは無いのだが、書類審査の段階で韓国人駐在員のスタッフの審査が入ると、履歴書に記載された出身大学や大学院等でまず審査され振るい落とされてしまう。

旧帝大出身者や大学院出身者は比較的好意的にとらえられるのだがそれ以外は否定的に見る。これが喧伝されている韓国学歴社会かと多少は呆れてしまうのであった。

ある時私の研究室にある応募者が有った。彼の履歴を見ると一流国立大学大学院の出身でしかも工学博士号を持っている。現在はP電気に勤務中でキャリアアップの為転職したいそうだ。駐在員の採用担当者は一時面接前から、こんな立派な経歴ですから是非早く採用しましょうと強力に推薦するのであった。

ただ私には一つだけ気がかりが有った。それは確かにP電気の高周波半導体の研究開発部門で2年位の実績が有るのだが、その後の一年間は特許部門に異動し現在に至っている。まさにその懸念が後日現実になるのだが。

韓国人スタッフの強力な推薦もあったのでとりあえず一時面接しましょうと言うことになり、面接責任者の私は気になっていた事項を尋ねた所、特許に関して勉強したくて自分から異動を志願したと言うことだった。他の専門的なスキルに関してもすべて対応可能であると言うことで採用に至ったのであった。

無事入社に至った彼は早速当時高周波アンプの開発をしていたS専任の元で仕事を始めた。一週間位たったある日、彼のデスクでS専任が大声で彼を叱責している。「君はこの高周波シミュレータは使いこなせると行ったじゃないか?」彼は「私は工学博士なんだからこんなものすぐにできますよ!」と平然としている。訳を聞いてみると、履歴書中に記載してあった高周波開発シミュレータのスキルがデタラメだったと言うことだった。

私は自分が採用した手前、能力が有れば周囲の同僚に教わりつつ一週間も有れば習得するだろうと楽観していたが、彼はソフトメーカの電話サポートを頼りに独学で修得しようとしている様だったが、一ヶ月たってもシミュレータ使用方法に関して格闘中であり肝心のシミュレータを使った研究開発にはいつまでたっても入れなかったのである。

その後彼に別室で事情を聞くと、P電子で高周波IC研究開発部門から特許部門に異動したのは彼の意志では無く、異動させられたのですと告白したのであった。私は彼に君は技術者としての能力が劣る訳では無いだろうが、対人関係で問題が有るのではないか? 研究開発成果も自分個人の自己満足では無く、広く世間を納得させてこそ価値が有るし、その部分の能力が君は不足していると説教したら、まったくその通りP電気でも言われましたと涙目で答えるのであった。

最近大人の発達障害が問題になっているらしい。特に技術者に多いらしいのだが、学力・思考力は全く問題ないのだが対人対応力が小学生程度から全く発達していない一種の病気だそうである。病気であるから専門医が治療すれば比較的簡単に投薬療法で改善するそうである。問題は本人が納得して自分の障害を認めるかである。彼の場合も早く専門医の診療を受け復帰できることを祈るばかりである。

その後彼は試用期間の3ヶ月も経たず自主退職していった。別れ際に彼は「次の応募先から調査が入ったらこの事は内緒にお願いします」と言い残し去って行った。それ位機転がきくならもっとうまくやれるだろうにと多少複雑な気分であった。

韓国人駐在員スタッフも多少は懲りたらしく、技術人材採用に関しては応募者の現在の職場での評判を調査して重視するという我々日本人スタッフの意見を大分取り入れるようになったのである。

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通信機器の高周波回路・部品の研究開発に携わって来た技術屋のブログです。現在は個人経営の技術コンサルタントを営んでおります。
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最近「ドローン」の無線応用技術についてスタディーを始めました。自動配達の為の自律飛行を補助する衝突防止レーダ等、興味深い分野です。
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​「ドローン」墜落事故が散見される中、現在は「航空法」に依って規制され、ラジコンによる「目視飛行」が許可されている様ですが、安全飛行の為には無線通信の確保が大前提となります。
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またRFD-Labホームページに掲載した技術解説記事のPDF抜粋も併せて掲載しますのでご興味のある皆さんは参照して下さい。

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