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第30話:忍耐だよ忍耐

S電子日本研究所の設立に当たっては本社の各事業部が設立資金を出し合って建設された様である。おもしろい事に研究所内の各研究室の占有フロア面積もそのパトロンである本社各事業部の出資額に応じて決まっていた。

筆者が所属していた無線通信関連の研究室は当然本社の無線事業部(携帯電話事業部)の出資であり日本研究所内でも比較的広いフロアを占有していた。しかし筆者が入社した当時は研究員も数名でしかも測定設備等も完備していなかった為、ただ広いフロアにパーティシションで区切られた研究員用デスクが並ぶだけで、寂しい限りであり、また大変な所に来てしまったなあと言う感も否め無かった。

その後研究員の増員に伴い、アンテナ測定用の電波暗室や各種マイクロ波測定機、各種高周波シミュレータ等も整備させ順調に研究開発活動も推移したのであった。

日本研究所自体は本社研究所の傘下であったが、設立当時は各研究室それぞれが本社の関連事業部の傘下であった為、頻繁に訪韓し事業部の技術者達とミーティングを実施したものであった。当時の携帯電話事業は韓国国内用のCDMA電話が成功していて、現在主流であるGSM系の携帯電話事業はまだまだ黎明期であった。

当時のGSM携帯電話の開発グループは水原近郊の研究所にあり、技術会議で頻繁に訪問したのだが、当時の開発責任者がS理事(常務)であり、彼は訪問した日本人技術者をたびたび食事に誘い出しねぎらってくれたのである。夕食をご馳走になった時などは、余り強くない酒を飲んで真っ赤な顔で日本人の若い技術屋を色々激励してくれるのであった。

そんなある日昼食を一緒に食べようと言う事になり近郊の焼肉屋に出かけた我々は、本場の水原カルビを焼きながら色々話しに花を咲かせていた。ちなみに水原カルビは所謂センカルビ(生カルビ)と言われていて、たれに漬けていない生の骨付きカルビを焼き、ハサミで一口サイズに切った後、それぞれ好みの味噌や野菜と一緒に食すのである。生のニンニクスライス等も用意されている。

私はずっと昔、確かソウルオリンピックの年の韓国出張時、現地スタッフとの昼食にやはり焼肉を食べた経験があり、その時には生ニンニクも一緒に食べてしまい非常に旨かったのだが、現地スタッフに「後で匂いがきついですから、さすがに我々韓国人も昼食には生ニンニクは食べませんよ」と言われ赤面した事があったのを思い出した。

話しも進んだ頃、S理事がしみじみと「Hさん(筆者)何事も「インネ」だよ「インネ」」と言いだした。「インネ」の意味が判らなかったので「What is the meaning of インネ?」と尋ねて見ると「Endurance」と答えた。「インネ」は「忍耐」の韓国読みだと言う事が判ったのであった。

丁度その頃GSM携帯が事業的にも成功を収めつつあり先が見えてきた彼には、先行して韓国内で成功したCDMA携帯の陰で努力してきた時期の苦労が思い出され、「何事も忍耐だよ忍耐」と丁度日本研究所の立上げ期にあった私にアドバイスをしてくれたのだろう。

現在のS電子の無線事業部はその後のスマートフォンの成功も相まって世界シェアー一位まで登りつめ、S電子の利益に大きく貢献している。またS理事もその後事業の成功とともに上り詰め現在は無線事業部の社長にまでなっている。現在は商売敵であるアップルとの特許戦争でさぞ忙しく大変な次期だろうが健闘を祈るばかりである。

その後日本研究所が本社研究所の傘下に移ったことからS社長とは疎遠になってしまったが、時折WEBニュース等に登場する彼の写真を見るにあたり、彼があの時しみじみと言った「Hさん、何事も忍耐だよ忍耐」とのアドバイスが思い出されるのである。

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通信機器の高周波回路・部品の研究開発に携わって来た技術屋のブログです。現在は個人経営の技術コンサルタントを営んでおります。
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最近「ドローン」の無線応用技術についてスタディーを始めました。自動配達の為の自律飛行を補助する衝突防止レーダ等、興味深い分野です。
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​「ドローン」墜落事故が散見される中、現在は「航空法」に依って規制され、ラジコンによる「目視飛行」が許可されている様ですが、安全飛行の為には無線通信の確保が大前提となります。
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またRFD-Labホームページに掲載した技術解説記事のPDF抜粋も併せて掲載しますのでご興味のある皆さんは参照して下さい。

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